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宮下公園国賠控訴審判決文

2015年9月17日宮下公園国賠の控訴審の判決があり、渋谷区の控訴棄却という判決が出た。判決文を入手したので個人情報を一部伏せ字にした上で公開する。

平成27年9月17日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 本間美和
平成27年(ネ) 第2104号 損害賠償請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所平成23年(ワ)第13165号)
口頭弁論終結日 平成27年8月20日

判決

東京都渋谷区宇田川町1-1
控訴人       渋谷区
上記代表者区長 長谷部 健
上記指定代理人 山田   幸男
同          小池   浩三郎
同          後藤   健志
同          中谷   ゆかり
同          島田   直子

東京都●●●●●●
被控訴人     ●●●●
上記訴訟代理人弁護士 山本 志都
同              戸舘 圭之

主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1 控訴の趣旨
 1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
 2 被控訴人の請求を棄却する。

第2 事案の概要
 1 特別地方公共団体である控訴人は、自らが設置・管理する都市公園法(都公法)上の公園である渋谷区立宮下公園(宮下公園)の命名権(ネーミングライツ)を株式会社ナイキジャパン(ナイキ)に売却し、宮下公園の整備工事を行う計画(本件計画)の一環として、平成22年9月15日、宮下公園で起居していたホームレスである被控訴人を公園から退去させ、同月24日、公園内に残置されていた物件を行政代執行により撤去した(本件代執行)。

 本件は、被控訴人が宮下公園を活動拠点としていた団体(権利能力なき社団)らとともに原告となり(以下、両者を併せて「一審原告ら」という。)、①被控訴人を宮下公園から強制排除した控訴人の行為は違法である、②本件計画は議会の議決を経ていない等の違法があり、本件計画を実施することを目的に、平成22年9月24日に行われた本件代執行はその違法性を継承する、③本件代執行は弁明の機会が付与されておらず違法であり、これらの違法行為により一審原告らが宮下公園で居住・活動する権利等を侵害されたと主張して、国家賠償法1条1項に基づき、所有物件の物的損害及び慰謝料等並びにこれに対する違法行為日(被控訴人が退去させられた平成22年9月15日)から支払済みまで民法所定金5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。

2 原審は、被控訴人の請求については、控訴人が、被控訴人の意に反し、被控訴人を無理やり担ぎ上げて宮下公園から退去させたことは、国家賠償法上違法であるが、本件代執行は、被控訴人が本件代執行が行われる以前に宮下公園内に残置された被控訴人所有の物件に関する所有権を放棄しているから、本件代執行が被控訴人との関係で違法とならないとして、被控訴人を公園から退去させられたことの慰謝料として10万円及び弁護士費用1万円並びにこれに対する遅延損害金の支払請求を認容した。また、被控訴人以外の一審原告らの請求については、控訴人とナイキとの間で契約(本件契約)を締結したことについて、地方自治法(地自法)96条1項9号、同法234条2項に違反した違法があるが、その違法性は本件代執行に承継されず、その他これらの一審原告らとの関係では本件代執行が違法であるとは認められないとして、これらの請求をいずれも棄却した。

3 前提事実並びに争点及び争点に対する当事者の主張は、4に当審における控訴人の主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の2から4までに記載のとおりであるから、これを引用する。

4 当審における控訴人の主張

(1) 被控訴人の退去の違法性について
 ア 原判決は、被控訴人を無理矢理担ぎ上げたことを直接強制であり、違法であると判断したが、同判決は「担ぎ上げ」という一部のみを取り上げており、被控訴人の安全確保のためには「担ぎ上げ」もやむを得なかった、それまでの行為態様等を考慮していない点において、事実誤認がある。
 すなわち、控訴人の職員の山中昌彦(山中)は、被控訴人に立入禁止区域であることを何度も説明し、退去を促し、同人の手が手すりから離れた後、同人は自らの足で歩き、その後警備員らに担ぎ上げられている。被控訴人の説得にかけた時間は15分51秒間、同人が自ら歩いた時間は46秒間、同人が担ぎ上げられた時間は約23秒間であり、しかも、被控訴人は坂道で右足のバランスを崩しており、警備員らはそれを支えるようにして、しかも、扉付きガードフェンスにつまずかないよう、被控訴人を担ぎ上げていた(乙74、77)。したがって、かかる担ぎ上げは、主として、被控訴人の安全確保のためなされたと解するのが相当であって、これを捉えて直接強制とするのは不当である。

イ また、被控訴人の退去に係る業務に瑕疵があるか否かは、①工事の公共性の有無、②路上生活者の無権原性、③路上生活者の権利侵害の程度、④工事の手続面、⑤代替措置の提供、⑥他の適法な手段を採ることの困難性等の要素が考慮すべきである(最高裁平成14年9月30日決定・刑集56巻7号395頁参照)。
 本件では、①傷んだ高木の倒伐を防ぐための公園の植栽剪定作業等という工事の公共性があり、②被控訴人は都公法6条に違反して宮下公園を占用等していたものであり、③本件の「担ぎ上げ」には正当な理由があり、しかも、その時間はわずか約23秒間であって、その権利利益の侵害の程度は高くない、④控訴人によってホームレスに対する相談会及びテント等の除去等に関する勧告等がされていた、⑤ホームレスに対する相談会が行われていた、⑥被控訴人の退去の際は、宮下公園は一部利用禁止となっており、退去命令により被控訴人を直ちに退去させなければ、同人が公園内に閉じ込められたり、工事による傷害等の危険があり、また、前記アのとおり「担ぎ上げ」には正当な理由があった。したがって、業務の正当性ないし必要性があり、民法上の正当防衛又は自救行為として許される。

ウ 原判決は、控訴人の職員らの行為には、緊急性、相当性と判断したが、被控訴人の退去に際して同人を担ぎ上げた控訴人職員らの行為には、次のとおり緊急性及び相当性があり、判断に誤りがある。
 宮下公園の地盤は、保水能力が元々低かったところ、平成22年は猛暑で、宮下公園内の樹木の痛みが激しく、高木が倒伏し たり枯れ枝が園外に落下したりするおそれがある危険な状態であった。そのため、公園を一部計指して、直ちに公園の植栽剪定作業をすべきであったところ、「被控訴人の退去」が行われた平成22年9月15日朝は、公園の植栽剪定作業を行うための宮下公園一部閉鎖作業が既に始まっており、被控訴人が公園内に留まることは非常に危険であり被控訴人の身体の安全のために退去が必要であったから「緊急やむを得ない事情」があった。
 また、被控訴人の「担ぎ上げ」は、主として、被控訴人の安全確保のためにされたという正当な理由があり、しかも、その態様も、被控訴人が扉付きガードフェンスにつまずかないよう、当該フェンスを通過する前後のわずか約23秒間の担ぎ上げであり、被控訴人の安全確保のため必要な限度である。また、「被控訴人の退去」を全体として考察すれば、被控訴人は警備員に体を任せており、穏当なものと評価されうるから、「相当性の範囲を逸脱」していない 。

(2) 地自法96条1項9号違反について
 原判決は、本件契約の締結は議会による議決を経ていないから、地自法96条1項9号に違反した違法があると判断するが、被控訴人の当該主張は、財務会計上の行為の違法を主張するもので、地自法242条の2所定の住民訴訟でなければおよそ争い得るものではないものである。
 また、本件契約は、控訴人が(ネーミングライツという、控訴人の普通財産(地自法238条1項5号及び同条4項)を、ナイキに対して、10年間使用させ、その対価として、ナイキは、控訴人に対して、公園を整備して引き渡すとともに毎年度1700万円を支払うという内容であり、控訴人がナイキにネーミングライツを使用させる義務と、ナイキが上記使用に対して公園整備・引渡しを行い、毎年度1700万円を支払う義務は対価的均衡の関係にあるのであって、賃貸借契約類似の無体財産権に係る有償双務契約である。普通財産を貸し付けることは地自法上認められており(地自法238条の5第1項)、「適正な対価」を得た貸付けでもあるから、本件契約は、地自法96条1項9号違反は生じない。

(3)地自法234条2項違反について
 原判決は、本件契約は、随意契約の方法によることができないにもかかわらず、これに拠ったから、地自法234条2項に違反した違法があると判断した。 しかし、被控訴人の、本件契約は、地自法234条2項に違反する」との主張は、財務会計上の行為の違法を主張するもので、地自法234条の2所定の住民訴訟でなければおよそ争い得るものではない。
 また、本件契約は、「収入」を得ることのみを主目的にネーミングライツについての賃貸借契約類似の契約を締結したものではなく、ナイキの地域貢献による公園設備の整備及び公園の維持管理の充実という目的(本件契約1条)のもと、ナイキというスポーツ分野における世界的な企業としてのブランド、知名度、既に26カ所のバスケットボールコートを寄贈したノウハウ等を活用した、公園全体をスポーツ施設を中心とした形態に再整備する計画であり、公園の価値向上が大いに期待できる性質・内容の契約であり、本件契約を締結するに当たっては、公正性、経済性等を確保し得るという選考過程を経た。
 これらの本件契約の種類、内容、性質、目的等諸般の事情を考慮すれば、本件契約は、地自法施行令167条の2第1項2号に掲げる「その性質又は目的が競争入札にてきしないものをするとき」に当たるというべきものであって、契約担当者に裁量判断の逸脱又は濫用の違法はないから、地自法234条2項に違反することはない。これを違法とした原判決には、本件契約に対する評価及び地自法234条2項の解釈の誤りがある。

第3 当裁判所の判断

1 当裁判所も、控訴人の職員らが被控訴人をその意思に反して担ぎ上げて宮下公園から退去させたことは退去命令を直接強制した違法があり、原判決が認容した限度で被控訴人の控訴人に対する慰謝料請求等は理由があると判断する。その理由は、以下のとおり改め、2に当審における控訴人の主張に鑑み判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」のうち、被控訴人に関する記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)原判決25頁3行目の「原告●●の退去」の次に「(以下のかっこ内の時間は、当該場面を撮影したDVD(乙74)のカウンター表示である。)」を加え、8行目「取り囲んだ。」から18行目末尾までを次のとおり改める。「取り囲んだ(3分00秒~4分38秒)。山中が立入禁止区域であると被控訴人に伝えたところ、被控訴人が逃げようとしたために、警備員らは再度被控訴人を取り囲むとともに、山中は被控訴人の肩に手を添えるなどしつつ6番ゲートの外に誘導しようとした(4分39秒~5分19秒)。誘導中、被控訴人が座り込もうとしたため、山中は、被控訴人のズボンのベルトの背中側部分をつかみ、これを妨げた(5分20秒~8分29秒)。被控訴人はなおも座りこもうとしたため、山中は被控訴人の両脇をかかえ、これを妨げた(8分30秒~9分10秒)。被控訴人は、近くにあった手すりに左腕をかけた上、両手の指を組んだところ、山中は、控訴人の職員1名と2人がかりで被控訴人の指の間にゆびを入れる等して両手を離させた(9分11秒~14分33秒)。その後、警備員4名が各々被控訴人の両肩及び両足をつかんで担ぎ上げた状態で6番ゲートの外に移動した上、被控訴人は降ろされた(14分34秒~14分43秒)。被控訴人は更に警備員らに促されて公園の外部につながる5番ゲートの方向に向かって歩いて行った(14分44秒~15分29秒)。被控訴人は、5番ゲートの手前に至った所で、再び警備員らに担ぎ上げられ、5番ゲートを通過して公園の外の公道まで運ばれ、同所で降ろされた(15分30秒~15分54秒)。当時、宮下公園の第6ゲート及び第5ゲートには、それぞれ扉付きガードフェンスが設けられており、その出入口扉の下部には目測で地面から高さ十数センチメートルの框(かまち)状の構造物があり、同所を通過するためにはこれを跨いで通行する必要がある(甲88、89、乙71、74、75)。」

(2)原判決29頁25行目及び30頁12行目の各「原告」を「一審原告ら」と改める。

2 当審における控訴人の主張について
(1) 被控訴人の退去の違法性について
 ア 控訴人は、被控訴人を宮下公園から退去させるに際して被控訴人を担ぎ上げたことについて、担ぎ上げの前に控訴人の職員(山中)が被控訴人に対して立入禁止区域であることを説明し退去を促していた経緯があったこと、担ぎ上げは、歩行のバランスを崩しそうになった被控訴人が扉付きガードフェンスにつまずかないように安全確保のために行ったことから、直接強制には当たらない旨の主張をする。
 しかしながら、前認定の事実関係によれば、宮下公園の6番ゲートを通過するためには扉付きガードフェンス出入口の下部の構造物を跨いで進行する必要があったこと、被控訴人は宮下公園からの退去を拒み、6番ゲート手前でも腕を手すりにかけるなど抵抗しており、被控訴人は少なくとも自己の意思で出入口から退出しようするような様子はなく、警備員4名が被控訴人の両肩及び両足をつかんで担ぎ上げて出入口の構造物上を通過し、6番ゲートの外で被控訴人が降ろされたこと、その後被控訴人は5番ゲート手前でも再度担ぎ上げられて同様に出入口の構造物上を通過して5番ゲートの外で降ろされたことが認められる。このように、被控訴人の退去の様子を撮影したDVDを視聴する限りでは、被控訴人は上記各ゲートを自己の意思で通過する意思がなかったために、各ゲートを通過するために控訴人の職員らが被控訴人を担ぎ上げて同所を通過し、被控訴人を公園から退出させたものと認められるのであり、この担ぎ上げ及び担ぎ上げに伴ってされた被控訴人の場所的移動は、控訴人の被控訴人に対する退去命令の内容を実現するものであって、かつ、被控訴人の意思に反するものであるから、直接強制に当たるというほかないものである。そして、被控訴人を担ぎ上げたことについて、控訴人において安全確保の意図が含まれていたとしても、そのことで直接強制に該当するとの評価が左右されるものではないというべきである。

イ また、控訴人は、被控訴人を担ぎ上げたことについて、業務の正当性ないし必要性があり、民法上の正当防衛又は自救行為として許されるとも主張するが、控訴人の被控訴人に対する退去命令について、その実施のために対象者の意思に反して直接有形力を行使してその内容を実現することの実定法上の根拠が認められない以上、民法上の正当防衛や法律上許容された自救行為に当たる余地はない(控訴人の掲記する最高裁判例は事案を異にするものである。)。

ウ さらに、控訴人は、被控訴人を担ぎ上げたことについて、緊急性、相当性が認められ、違法性がないとも主張するが、倒木、枝の落下等の危険や被控訴人の安全確保といった事情は、被控訴人を公園から退去させる必要性として理解できても、そのために被控訴人を担ぎ上げて公園から排除する必要があるといえるほどの緊急性を基礎づけるものにはなりえない。また、相当性があるとして控訴人が指摘する各事情についても、被控訴人を担ぎ上げたこと自体が法律上許されない直接強制に該当するものであるから、担ぎ上げの態様につき、時間が短かったり、有形力の作用が必ずしも暴力的なものでなかったりしたとしても、これらが違法であることの評価を左右する事情にはならない。

エ したがって、控訴人のこの点の主張は採用できない。

(2)地自法96条1項9号違反及び同法234条2項違反に関する主張について

 控訴人は、これらの規定違反の主張は住民訴訟でしか主張できず、また、本件契約の締結についてはこれらの規定違反はない旨の主張をする。
 しかしながら、原審においては、上記規定違反による違法の問題は、その違法が後行する本件代執行に継承されて本件代執行も違法となるいう主張の前提問題であったところ、被控訴人の関係では、本件代執行が行われる以前に宮下公園内に残置された被控訴人所有の物件に関して被控訴人が所有権を放棄していたことから、本件代執行が被控訴人との関係で違法となるとは認められないとして、本件代執行が違法であることに基づく被控訴人の物的な損害に係る主張が排斥されたものである。そうすると、控訴人の当該主張に係る地自法上の法律問題は、もっぱら被控訴人以外の一審原告らとの関係でのみ取り扱われるべき問題であり、被控訴人との間では関係がない。そして、控訴人の上記主張で取り上げられている法律問題の結論がどのようなものであっても、被控訴人の請求に対する判断を何ら左右するものではないから、控訴人の上記主張は、本件(被控訴人との関係)においては、失当である。
 以上から、控訴人のこの点の主張も採用できない。

3 そうすると、被控訴人の請求を一部認容した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第2民事部

裁判長裁判官 柴田 寛之
    裁判官 梅本 圭一郎
    裁判官 坂本 浩志
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